最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)119号 判決 1951年3月08日
主文
本件上告を棄却する。
訴訟費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士米沢多助上告理由について。
第一点 自作農創設特別措置法三条の規定による農地の買収は、同法九条による買収令書の交付によつて効力を生じ、同法一二条により右令書に記載した買収時期にその所有権が政府に帰属し、右農地に関する権利が原則として消滅するものである。それ故に、その買収令書においてその目的たる農地を特定することを要するのは明かである。しかるに、原審において上告人の代理人は「本件買収令書記載の土地が特定していないことは認める」といつている。上告理由においては、農地買収は短期間内に全国にわたつて行うのであるから、分筆手続をした上で買収すべきものとすれば買収手続が甚だしく遅れると主張しているが、原判決は分筆手続をして特定することを要するとするのではなく、ただその目的たる農地を特定することを要すると言つているだけである。分筆登記を行わなくとも、図面の上に買収土地を示す等の方法によつて所有権の政府に帰属する区域を特定すれば足りるのである。論旨は、それ故に理由がない。
第二点 所論は、本件買収農地の区域は事実上特定していることについて当事者間に争がないにかかわらず、原判決は特定されていないことについて当事者間に争がないとしたのは当事者の主張を誤認したものであると主張している。しかしながら、原判決が当事者間に争がないとしているのは、買収令書の上で特定されていないと言うのであり、この事実について争がないのは記録によつて明白である。だから論旨は採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見によつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)